- 『荒木飛呂彦の漫画術』の感想が知りたい
- 漫画を描いているので参考にしたい
- 荒木先生はどんなふうに漫画を描いているのか知りたい
この記事は荒木飛呂彦先生の著書『荒木飛呂彦の漫画術』(集英社新書)を要約してご紹介します。
荒木飛呂彦先生といえば知らない人はいない、人気漫画「ジョジョの奇妙な冒険」で有名な漫画家です。
本書は、荒木 飛呂彦先生の漫画の描き方や秘密を先生自らが解き明かしている本です。もし本気で漫画家を目指すなら本書はゼッタイに参考にしておいた方がいい思います。
この記事では本書の中から、著者が特に気になった点をピックアップして要約します。
この記事でわかること
最初の1ページをめくってもらうために考えること
荒木先生がデビュー時代にいちばん恐れていたのは、編集者が自分の原稿を袋からちょっと出しただけで1ページも見ずに袋に戻してしまう、ことだったそうです。
編集者は日ごろからたくさんの原稿を見ているので、1ページを見ただけで「どういう漫画か」がわかるそうですが、どこかで見たことあるようなものは編集者も読者も見てくれません。
袋に戻されず1ページ目をめくってもらえるような、最初の1ページを描くにはどうしたらいいのか?
先生は次の項目で分析しているとのことです。
1ページをめくってもらうために考える項目
- どんな絵にするか
- 読みたくなるタイトル
- いいセリフ
どんな絵を描くか?
1ページをめくってもらえそうな魅力的な絵とはどんなものか?それを列挙すると次のようなものが考えられます。
- きれいな絵
- 変わった絵
- 不気味な絵
- 線のキレイな絵
- エロい絵….etc
その上で自分だったらどんな絵にするかを考えるとのことです。
読みたくなるタイトルは
絵と同様にタイトルも売れているタイトルを列挙して、その中でページをめくりたくなるようなタイトルか、自分ならどんなタイトルをつけるのかを考えます。
- サザエさん
- ジュラシック・パーク
- ちびまる子ちゃん
- 紙の月…etc
ちなみに荒木先生はサザエさんやちびまる子ちゃんのように主人公の名前が入っているタイトルが好きなのだそうです
どんなセリフがあれば次のページも読みたくなるか?
セリフも同様です。
まずはどんなセリフがあれば次のページも読みたくなるのか列挙し、その上で決定します。
- ドキッとするセリフ
- しっとり落ち着くセリフ
- 癒されるセリフ
- 悲しいセリフ…etc
以上のように、先生はいずれも自分がいいなと思う作品やヒットしている作品の絵・タイトル・セリフを列挙して、それらを参考にし、自分だったらどうするかを考えてらっしゃることがわかります。
つまり売れている作品をヒントにしている、ということです。
最初の1ページをただなんとなく描くのは絶対にNGだと先生は言っています。
押さえておきたい漫画の「基本四大構造」
第二章では先生が漫画を描くときに、常に頭に入れておくべき「基本四大構造」を解説しています。
重要度の高い順に並べると。
基本四大構造
- キャラクター
- ストーリー
- 世界観
- テーマ
先生いわく、漫画は「総合芸術」であり漫画家はこのすべてをひとりでできないといけません。
良いキャラクターが作れているか、ストーリーはOKか、世界観はちゃんと描けているか、テーマは一貫しているか、絵はだいじょうぶか、漫画はこれらを常にバランスがとれているか意識しながら描くことが重要だといいます。
漫画や小説、映画を観る時にはただ観るのではなく、「なぜおもしろいのか」をこの四大構造の図式を照らしあらわせてましょう。
例えば、「サザエさん」や「こちら葛飾区亀有公園前派出所」はキャラクターを中心に描いています。世界観を中心に描いた代表では「AKIRA」です。
世の中でヒットしている作品、自分がそれほどいいと思っていなくても評価が高い作品も、図式に当てはめてみるとおもしろさの要素が見えてくる、と先生はいいます。
キャラクター作りの「秘伝のたれ」
本書の第三章ではキャラクターの作り方について解説しています。
魅力的なキャラクターはストーリーも世界観も必要ないくらい超重要事項で、魅力的なキャラクターが作れれば無敵だと、先生は言います。
では魅力的なキャラクターはどう作ればいいのでしょうか?
身上調査書は「秘伝のたれ」
先生はキャラクターを作るとき、絵にする前に必ず身上調査書を書くことにしているそうです。
本書の先生の調査書から抜粋すると次の項目です。
身上調査書の項目
- 姓名、年齢、性別
- 生年月日、星座、血液型、出身地
- 身長、体重、髪や目の色
- 視力・メガネの有無、声の質
- 手術経験・病気
- 体の傷やアザ
- 身体的特徴、人種、宗教
- 前科、賞、学歴
- 幼児、少年期の精神的体験
- セックス体験、恋人、結婚
- 尊敬する人、恨んでる人
- 将来の夢
- 恐怖
- 性格的特徴、口ぐせ、くせ
- 人間関係、態度
- 家族関係、態度
- トラブル関係
アルバイトや会社で面接するときに履歴書を書きますが、 履歴書で空白があったら、「この期間何をしていたんだろう?」と思いますよね。
それと同じように、身上調査書はキャラクターで目に見えないものを可視化するために書きます。
主人公は「常にプラス」でなければならない
第四章はストーリーの作り方について解説されています。
よいストーリーとはどういうものか、そしてどうやって作ればよいのでしょうか。
ストーリー作りの鉄則
先生いわく、ストーリー作りの基本は「起承転結」です。
バトル漫画を例にすると次のようになります。
バトル漫画を例にした「起承転結」
- 「起」主人公を読者に紹介する
- 「承」主人公が敵に出会う
- 「転」主人公が窮地に立つ
- 「結」勝利してハッピーエンド
この起承転結によって、無限にバリエーションを生み出すことができます。
変化球を出すにしても、常にこの起承転結から考えるのがストーリー作りの鉄則です。
先生といえども、起承転結を鉄則だと言っているのは意外でしたが
やはり基本は大事なんですね
主人公は常にプラス
ストーリー作りで次に大切にしているのは、「プラスとマイナスの法則」だといいます。
ゼロの線を基準として、主人公の気持ちや置かれている状況が上がっているか下がっているかを考えましょう。
キャラクターは必ず成長するように描くことが大事です。
特に少年漫画の場合は常にプラスを積み重ねてどんどん上に上がっていく、これがヒットするための絶対条件だと先生は言います。
どのヒット作品でも「主人公は常にプラス」です。
主人公はどんな困難に遭遇しても克服して勝って成長していく・・・これが理想のパターンです。
ヒットする漫画の絵の条件
第五章では、ヒットする漫画の絵の条件について解説します。
漫画の世界では、絵が上手い絵だからといってヒットするわけではありません。
素人目にも「上手い絵」と言えない漫画が売れている場合もあります。
「下手でも売れる」絵は「上手いのに売れない」絵と何が違うの?
先生いわく、その秘密は作者が誰かすぐにわかることです。
売れている漫画と売れていない漫画の絵の違い
- 「売れている漫画」は5メートル、10メートル離れたところからでも誰の漫画か分かる
- 「売れていない漫画」は絵柄の見分けがつきにくく、読者アンケートの順位も厳しい
そのことから先生は、漫画の絵で大切なのは一瞬見ただけでも誰の漫画かすぐにわかることだと気づいたそうです。
絵の描き方には、リアル化とシンボル化の2種類があります。
- リアル化
- シンボル化
人気漫画の絵は、ドラえもんやミッキーマウスのようにシンボル化が上手くいっていると先生は発見しました。
たしかに人気作品はすぐに誰が描いたわかる絵だよな
その2つを共存させるためには、大事な部分はリアルでも他のところはそうでなくてもいい、ということです。
例えば、スポーツ漫画ならサッカーの試合は描き込んでも、食事のシーンはそれほどリアルでなくてもいい、ということです。料理漫画なら逆に食事のシーンを描き込む、ということですね。
シンボル化は大事ですが、絵を達筆風に描くのはやめた方がいいと先生はいいます。
絵を丁寧に描くのは基本中の基本でプロである以上、手抜きの絵を描くのは言語道断だと先生は言っております。
ヘタだと思う絵の漫画がヒットする謎がとけた
上手いだけじゃだめで人にあの人の絵だって覚えてもらわなアカンのね
世界観の作り方
第六章では、「世界観」について解説されています。
「世界観」は読者を惹きつけるために重要です。
大勢の読者がその漫画が描く世界観に浸りたいと思っており、たとえ架空であっても漫画家の中では確固たるものとして成立してなければなりません。
では、世界観はどう作ればいいのでしょうか?
例えば、先生がどんなことに着目して何を調べて世界観を作るのか「組織」を例にすると・・・
「組織を描くとき」
- その組織の「トップ」は誰で、どんな人物か
- 組織の目的は何か
- 資金源や収入源
- どんな特許を持っているか
- ルーツや創始者について
- 何人くらい部下がいるのか
- 社則はどんなものか
- 流通はどうなっているか
- どんな部署があるか
etc
以上のように、「組織」についてだけでも世界観を作るためにやるべきことは無限にあります。
世界観を調べるには、インターネットだけでなく必要なら実際に現場に行きます。
実際に行ってみると思っていたのと違うこともしばしばあるし、現場で思わぬアイディアが浮かぶこともあります。
先生は、「ジョジョ」第三部の「スターダストクルセイダーズ」ではゴールとなるエジプトまでの工程となる場所にはすべて取材に行ったそうです。
「テーマ」はぐらつかせない
第七章ではテーマについて解説されています。
漫画、映画、小説、テレビドラマでも、名作と呼ばれるものには背後に必ず強力な「テーマ」が存在すると先生はいいます。
例えば、「こち亀」は「大人でありながら子どもの心を持っているおまわりさんが起こす日常騒動を描く」テーマで一貫していますよね。
「テーマ」とは作者のもの考え方であり、自分がどう生きるべきかです。
それを作品の根本に据えて、ぐらつかせないように心がけましょう。
もしアナタがスポーツ漫画を描いたとして、友情を描こうと思っていたけど人気が出なかったとします。その時に編集部から違うテーマでいこうと言われて、友情というテーマがぐらつくと作品は破綻します。
何を描きたいか、なぜ描くのかということは、漫画家にとって根本的に一番大事なことです。
そうならないためには、自分はその漫画で「何を描きたいのかどうか」をよく考えて、「自分はこれを描くんだ」とテーマを心に決めるしかありません。
自分がこれだと思うテーマがあれば、それを信じて漫画の王道に向かってひたすら歩んでください、と先生はおっしゃっています。
まとめ
今回のまとめです。
荒木飛呂彦の漫画術 まとめ
- 漫画は最初の1ページがとても大事
- 漫画の「基本4大構造」を押さえる
- キャラクター作りの「秘伝のたれ」は「身上調査書」
- 主人公は常にプラスでなければならない
- ヒットする絵の条件は一瞬で誰が描いたかわかる絵
- 世界観を作るにはインターネットだけでなく実際に行くことも必要
- テーマはぐらつかせてはいけない
荒木飛呂彦先生は、「ジョジョ」のような独特な絵柄の漫画を描いてるのだから、感覚で描くような天才タイプの人だと思いましたが、この本を読むと全然そんなことはなかったです。
キャラづくりでは身上調査書を作ったり、ストーリーを作りにしても起承転結を鉄則としているなど、堅実で研究熱心な方だな、という認識です。
世の中に漫画の描き方の技術を解説する本はたくさんあっても、漫画家が自分の漫画家の描き方を自ら解説する本はちょっとありません。
漫画家が自身の手の内を公開するのはとても貴重です。それも荒木飛呂彦先生が明かす漫画術です。
今回紹介しませんでしたが、本書の後半には「岸辺露伴は動かない」を例に具体的な漫画の描き方についても解説されていました。
本書が気になったなら、ぜひ手に取って読んでみることをおすすめします。
荒木飛呂彦の漫画術【帯カラーイラスト付】 (集英社新書)
以上、フォックスでした
それではまた!